【PLANTALK Vol.10】アートやメディア、エンタメの力で楽しく、面白く、発見や感動に溢れた社会問題の解決に挑む、SEAMES コミンズ・リオ × PLANTIO CEO 芹澤孝悦 対談インタビュー
この度、PLANTIOのCSuO (最高サステナビリティ責任者) としてジョインした、アートやメディア、エンターテイメントの力で社会問題の解決に挑むSEAMES代表のコミンズ・リオさん。人々が楽しく、面白くアクションし続ける企画のエッセンス、そして SEAMES と PLANTIO でともに描いていく未来について、お話しました。

社会問題やその取り組みがまだ多くの人から知られていない
芹澤:コミンズさんの生い立ちや現在の活動の背景について聞かせていただけますか?
コミンズ:僕はアメリカのオレゴン州のポートランドで生まれました。オレゴン州はとても緑が多い地域で、実家の庭にある広い畑では、両親が野菜を育てていて、特に夏はスーパーで野菜を買う必要がありませんでした。家庭でトマトやきゅうりを育て、食べることの喜びを子どもながらに感じていて、そんな環境が当たり前の地域で育ってきました。
その後に日本に来て、大学は日本とニューヨークの大学に両方通い、新卒でテレビ局に入社しました。その後、テレビ局を退職し、世界中の都市を周り、一ヶ月ずつ違う都市に住み、現地の方をインタビューするプロジェクトに挑戦しました。そこで、世界の広さやその多様性を体感したのが20代後半までの生き方です。
そこから、共同創業者である認定NPO法人Learning for All 代表である李炯植と出会いました。彼と話している中で、社会問題の解決に向けて様々な取り組みをしているNPOやスタートアップが多くある一方で、その取り組みや向き合っている社会問題が多くの人に知られていない現状を知りました。その現状に課題意識を感じ、彼とともにアートやメディア、エンターテイメントを通じて、その認知度を上げた上で、解決に向けた人々のアクションを、喚起できるプロジェクトを興していくことをミッションとした、株式会社SEAMESを立ち上げました。

気候変動対策に残された時間をカウントダウンをする Climate Clock
芹澤:そのプロジェクトの一つとして、The Edible Park OTEMACHI by grow (以下「TEPO」) の入口にも設置している Climate Clock があるんですよね。

コミンズ:そうですね。『SPINZ』という高校生・大学生向けの社会問題×リアリティ番組を企画した際に、参加した学生の一人から「Climate Clock を渋谷に設置したい」という話を受けて、その学生が所属する環境団体と連携し、設置に向けた費用を集めるクラウドファンディングに挑戦したのが2021年の後半頃でした。
有難いことに多くのメディアにも取り上げていただき、小型機は渋谷駅前の観光案内所「SHIBU HACHI BOX」やコワーキングスペース、ライブハウス等に設置しましたが、より遠くからでも見える、インパクトのある Climate Clock の中型機の設置を考えていたタイミングで、当時その話をしていた芹澤さんと意気投合し、嬉しいことにこのTEPOに設置することになりました。

芹澤:そうでしたね。大手町という都心部のど真ん中の象徴的な場所に農園ができるので、そこに設置してみようという背景でしたよね。Climate Clock は今後どのように展開していきたいと考えていますか?
コミンズ:今後はこの中型機が grow のシェアリングIoT農園の増加に伴い、その入口などに設置させていただき、一緒に様々な場所へと展開できたらと考えています。Climate Clock で環境問題に関心を持っていただいた先で、「野菜を育てること」がアクションを起こす選択肢の一つになり得ると思いますので。
芹澤:そうですよね。アーバンファーミングには四つの良いところがあります。地域活性や食農教育、環境貢献、そして食料自給です。その中で「環境貢献」は若い世代を中心に意識的にアクションを起こしている方も多く、その選択肢の一つとして、コミュニティのみんなでワイワイしながら野菜を育てることで、同時に世の中も良くなっているという相乗効果を生み出せたら良いですよね。

始める「楽しさ、面白さ」と続ける「喜び」をデザインする
コミンズ:仰る通り、結局やっていて楽しいか、面白いかがめちゃくちゃ重要です。これは周りにいる環境アクティビストたちの話を聞いていて感じているのですが、既存の環境問題に対する身近なアクションは「ビニール袋を貰わずにエコバックを使う」とか「カーボンフットプリント減らすために、飛行機ではなく新幹線で旅行に行きます」とか、正直まだ面白い、楽しいと感じる選択肢は多くありません。そのため、みんなで一緒に野菜を育てて、採るとか、ご飯を食べるとか、そのような「喜び」を分かち合えるようなアクションはとっても重要です。
芹澤:そうですよね。実際にコミンズさんが様々なプロジェクトを企画される際に、先ほどお話したような「楽しさ」から生まれるポジティブなアクションに、更に「継続性」を持たせるために、意識されていることはありますか?
コミンズ:僕は、アクションをし続ける「喜び」を作るためのインセンティブの設計が重要だと思います。お店のスタンプカードやソーシャルゲームのログインボーナスがそれに近いかもしれませんが、私たちが企画するプロジェクトの要素として「プロセスエコノミー」があります。今年の1月にローンチしたRE:VISION ART PROJECT にもその要素が含まれていますが、自分が参加したことで、社会が良くなっていると感じられる疑似体験を如何に設計するかが重要だと考えています。先ほどお話した「楽しさ」はエントリー (入口) のスパイスであり、継続性を担保するものは、やり続ける「喜び」を作るインセンティブの設計だと思います。



芹澤:なるほど。世界ではアーバンファーミングが急拡大していて、恐らく日本も今年か来年には「アーバンファーミング元年」と言われるときが来ると思います。その中で、そもそもの野菜をそだてる喜びや、食べる楽しさは僕らが証明しなくても、古来から人々に浸透しているものなので、僕らはそれを grow のシステムでデジタル化して、そのプロセスを可視化し、アクションしたことに対するリテンションやリワードを設計、更に環境貢献を可視化する仕組みまで既にあるため、その入口にSEAMESの Climate Clock が設置されていることで、相乗効果的に意識や行動が高まっていくんじゃないかなと考えています。
コミンズ:仰る通りですね。その理念は素晴らしいとしか言いようがなく、僕も完全に共感します。
ともに描く「たのしく育てて、たのしく食べる。」世界
芹澤:ありがとうございます。こんな僕らがタッグを組むことで、どんな未来を描くことができるのか、コミンズさんの頭の中でビジョンはありますか?
コミンズ:そうですね、個人的には二つあると思っています。一つ目は、農園やそこで楽しく野菜を育てて、食べる人たちが増えていく未来ですね。このTEPOのような農園は東京中にあるべきだと思います。
二つ目は参加のエントリー (入口) のハードルを下げることで、より多くの方がアーバンファーミングに参加する未来です。実際に参加する一歩手前に「参加したいけど、一歩を踏み出せない」人もいると思います。内閣府の調査によると「社会の一員として、何か社会のために役立ちたいと思っている」と回答した割合は63.9% (※1) もいますが、その代表的な手段である「寄付」に関して、国内の寄付率は44.1% (※2) で「行動したい」と実際に「行動している」には約20%のギャップがあり、これは日本に限らず、世界各国でも同様の傾向があります。
ここで重要なキーワードが「ベイビーステップス」です。例えば、芹澤さんは何か出来なそうと感じることはありますか?
芹澤:僕は出来ないことはないと思っているタイプですね (笑)
コミンズ:なるほど (笑) じゃあ、そんな芹澤さんは「明日ヘリコプターの操縦をしてください」と言われたらどうしますか?
芹澤:めちゃくちゃ頑張って、今から飛行訓練をします (笑)
コミンズ:そうですよね、それは最初から完璧に飛ばすわけではなく、3mほど上がってから着陸するような訓練になりますよね?
芹澤:そうだと思います!

コミンズ:そのベイビーステップを頭の中で潜在的に思い描くことができるからこそ、芹澤さんは時間をかけて訓練すれば「僕は出来ないことはない」と感じているのだと思いますし、僕もその考えは正しいと思います。一方で自分には一歩踏み出せないと感じている人は、すぐに完璧に出来るようになりたい、ならなければいけないというインスタントな変化に対する期待を感じ過ぎてしまっているのかもしれません。
そこで、段階的なベイビーステップにより、自然と成功体験を積めるような設計が重要なのだと思います。例えば、とりあえず今年はケールを育ててみようと決めて、そこから簡単な手入れでぐんぐん育っていくケールを目の当たりにして、野菜を育てる成功体験を積み、徐々に育てる野菜の品種を増やしていくような。
芹澤:ありがとうございます。めちゃくちゃ良いお話でしたね。僕らも「農業」ではなく「農的活動」として、限りなくハードルを下げることを意識しています。一人ではなく、みんなでシェアして野菜を育てる仕組みもその一つです。そのようなベイビーステップの設計により、「たのしく育てて、たのしく食べる。」世界を、未来を、一緒に作っていきたいですね。
コミンズ:そうですね。一緒に頑張りましょう!
※1:内閣府「世論調査」2021年
※2:日本ファンドレイジング協会「寄付白書」2021年
