【PLANTALK Vol.7】〜台所から始まる小さな循環が、世の中を変える〜LFC代表たいら由以子×PLANTIO CEO 芹澤孝悦 対談インタビュー
つい数年前まで、都市部の一般家庭とは無縁だった“コンポスト”。
それが今では、コンポストをしていることが、“かっこいい”とまで表現されるようになりました。 “生ゴミからおいしい野菜を作ろう”という想いは、 どのように広まり、受け入れられてきたのでしょうか。
キーワードは、循環社会。
コンポストと元祖プランターに込められた想いが、つながる瞬間。そしてそれらがもたらす持続可能な未来への第一歩とは。LFCコンポスト代表のたいら由以子さんとPLANTIO芹澤が語ります。
コンポストが生まれたきっかけ

芹澤:たいらさんが活動を始められたのは、今から24年前でしたね。
たいら:はい。この活動をはじめたきっかけは、一番仲のよかった父が末期ガンで余命3カ月の宣告を受けたことにあります。当時は、末期ガン患者がどうやって生きるか、という話ができなかった時代で、父と話し合い、余命は自宅で過ごそう、ということにしました。
私たちが選択したのは、玄米菜食をする食養生。無農薬を探し、そして、料理をするのが私の仕事でした。でも、初日から壁にぶち当たりまして…。24年前はまったく無農薬の野菜がない。1日2時間かけて探した野菜が古くて高い。この世の中はどうなっているのか、という怒りで疲弊しました。
ところが努力をして食養生を続けていたら、父は日に日に元気になって、一度はガンが消えたんです。結果、父は2年、命が延びました。そのことから、食べ物が人の存在そのものを左右すると感じました。
そして、同じくらい、自分の子供が将来どうなるのか、不安になりました。父が生き延びた2年、あらゆる環境にいいことを試したのですが、なかなかうまくいかず…。最終的に行き当たったのが、全てを還元する土がきれいになれば解決できるということ。日々の暮らしと、土の改善につながるコンポストで改善できることがわかったんです。
芹澤:活動を始められて一番大変だったことは何ですか?

たいら:今だったら、コンポストで野菜を作っていると言うと、「うわー、すごい」と言われますが、当時は社会的位置付けがすごく低くて、認知もなく、“世の中をよくする”というよりも、臭いと虫がでないかという話ばかり。そこが一番苦労しましたね。なので虫の予防、そして都市部でもできるよう、臭いが出ないようにするにはどうしたらよいのか、真っ先に取り組んだのです。
芹澤:私もコンポストを使わせていただいています。生ゴミを入れているからどんな匂いがするんだろう?と思うけれども、バッグのチャックを開けたとき、森みたいな香りが広がってきて、そのギャップに本当にビックリしますよね。
“ 育てること ”と“ 食べること ”をつなぐ

芹澤:私のコンポストは、ようやく熟成期間が終わって、育てているゴーヤの土の上にかけたり、唐辛子がそろそろタネができるので最後の追い込みに肥料を入れたりしています。
たいらさんから見て、生ゴミから生まれ変わったコンポスト、そこでできた土と肥料で育てる野菜の手応えって、何か感じられますか?
たいら:一言で言うと、野菜がおいしい、それに腐りにくい。
私たちも何を食べたかによって大きくなったり、病気になりにくかったりしますよね。コンポストも同じ。子どものころから「バランスよく食べなさい」って言われますけど、バランスのよい食事から出た生ゴミには、バランスのよい野菜が含まれているんです。そして、微生物の体を繰り返し通したものなので、植物の根っこが吸収しやすい栄養の形になっています。それが、味の違いや長持ちの違いにつながっているんですね。

芹澤:このたび、ご縁があってご一緒させていただき、8月1日から発売をしているgrow CONNECTとコンポストのセットですが、お蔭様で大変好評をいただいています。このセットを通じて、台所とベランダがつながる循環を生み出していきたいなぁと。
たいら:やっぱり実感するということが、意識や価値観を変えていきますよね。LFCでもガーデニングセットを販売していて、これはお試しセットになっています。3週間、コンポストへ生ゴミを入れてみていただき、その栄養で野菜が育つという驚きと楽しみを知ってほしい、という思いから開発しました。
芹澤:生ゴミを入れながらコンポスティングをして、土と肥料を作りつつ、傍らで野菜を育てて…。野菜が育ったら、入れ替えてまたコンポスティングしていく。ほぼ永久にできる、持続可能なチェーンって素敵ですよね。
たいら:よくよく考えると、“食べたものを捨てるということが持続不可能だ”ということに、なかなか気づかないんですよね。
芹澤:育てることと食べること。
これが分断されている世の中になってしまっていて、そこをつなぐキーワードとして、僕らPLANTIOがまず真っ先に思ったのは、タネでした。固定種・在来種と呼ばれる、地方の伝統野菜なども含めた野菜のタネ。そういうタネを使うことでしっかりと命をつむぐということが非常に大切。そして、このタネが育つ土壌も同じくらい大事でして、やっぱりそこがしっかりと持続可能でないと、そもそも何も進まない、と心から思っています。
あと、プランターメーカーの目線で言うと、野菜栽培で一番困ったというお声が多いのは、野菜を収穫し終わった後の土の処理なんですね。コンポスティングして、また使えるようになることは、目から鱗の方も多いと思います。
自然を切り取ったコンポスト、自然を再現したプランター

たいら: 小学校でアンケートをとったことがありました。子どもたちは、生ゴミもくさい、炭もくさい、と言うけれども、何くさいか?を表現できなかったんです。アンケートの結果、においを表現する言葉を3種類くらいしか知らないことがわかりました。そのあと、子どもたちにコンポストを学校で1カ月間、体験してもらいました。驚くことに1カ月後、子どもたちのにおいの表現が30倍くらいに増えたんですね。
今の子どもたちは、私たちの子どもの頃と違って、街には抗菌・殺菌のものが溢れている。クーラーをつけて締め切った部屋にいるから、外の匂いがしない、外で泥遊びしないなど、菌も匂いもない暮らしになって生活スキルや五感が低下してしまっていることが原因の一つだと思いました。
芹澤:人類も、地球のシステムの中の一端であるにもかかわらず、我々だけ、除菌・殺菌と言っていますね。
たいら:そういった意味でも、ベランダでプランターの土を触る、コンポストを触る、それにまつわる生態系を見かけることは、子どもにとっても大人にとってもすごい大事だなぁと。
特にコンポストは、自然の一部を切り取ったようなことがバッグの中で起こっているので、いろんな変化で驚いたり、できた堆肥、愛情込めて作った堆肥で野菜を育てることで、野菜に対する愛着も増えると感じます。

芹澤:いいですね。
先ほど、“自然を切り取った”ことがコンポストの中で起きているとのことでしたが、本当におっしゃる通りで、私の祖父が開発したプランターも自然環境を小さく再現をする、というのがメインコンセプトだったんですよ。
たいら:そうですか、すばらしい!
生ゴミはゴミ?資源?

芹澤:都市部…農がない場所に循環型の社会をつくるため、僕らは、プランターやビルの屋上からのアプローチをしています。たいらさんから見ると、この都市部の問題ってどう思いますか?
たいら:都市部の資源って、人、知恵、お金、あと生ゴミだと思います。でも、この生ゴミが、“迷惑なゴミ”という扱いを受けていることが問題だと思っています。
芹澤:自分たちが出したゴミは、袋に入れて置いておけば、誰かが持って行ってくれる。家の中から袋に入れて外に出した時点で他人事になってしまう。そのゴミがどうなっていくのかわからず、でもどこかで溜まったものが大きくなった挙句、社会問題になってしまう。
でも実は、ごみは大事なリソースで、それを正しく次のサスティナブルチェーンに乗っければ循環をする、ということを皆さんが肌で感じて、小さいことでもやれば、その小さい組み合わせが重なって社会がよくなるんですよね。
たいら:小さくてもできること。それは、自分の食べている資源がどこからきているのか考えることや、肩の力を抜いて楽しむことが大事だと思います。
芹澤:“ 楽しい ”ってことは、僕らも大きなキーワードにしています。楽しくないと続かないなと。
コンポスト作りも正直すごくたのしい。掘っくりかえして、昨日入れたものがどんどん小さくなって、やがて消えちゃうじゃないですか。これはすごいなーと日々感心しながら見ています。それだけでも楽しいし、人に話すのも楽しい。輪が広がるととてもいいですよね。
循環社会に向けて

芹澤:今回、僭越ながら、パートナーシップという形でコラボをさせていただきました。まずはご家庭のベランダでの野菜栽培からスタートしましたが、今後は、我々が運営しているビル屋上のコミュニティファーム、マンションの1室などのインドアファームなど、アーバンファーミングのフィールドにもコラボの場所を広げていきたいと思っています。
コミュニティ型のコンポストを設置して、循環社会へと近づいている様子を誰もが可視化できる仕組み、なども取り入れていきたいと思っています。
たいら:台所とベランダの循環が、そっくりそのまま畑へつながって、レストランがここに加わって、そこに消費者も関わっていく。将来的には、消費者も都市部の野菜栽培に直接関わっていく仕組みになると、より強固なネットワークになりますね。
芹澤:そうですね。おっしゃる通りだと思います。
畑の循環が、ひいては都市へ。都市で捨てられているものがリソースとなり、食に還元される、循環社会ができあがるのです。 “農”の活動で作った野菜を持ち寄って、マルシェとかできたら楽しいですね。
たいら:やりたいです!今の時代にあった仕組みが新しく生まれそう!そのマルシェで堆肥を回収して、また農家と連携していきたいと思うので、ぜひご一緒させてください!
芹澤:みんなができる循環社会を切り開いていきたいですね。

PROFILE
たいら 由以子(たいら ゆいこ)
ローカルフードサイクリング株式会社 代表取締役
福岡市生まれ。大学を卒業後、証券会社に勤務。平成9年コンポスト活動開始、平成16年、NPO法人循環生活研究所を設立、国内外にコンポストを普及。生ごみ資源100研究会を主宰、循環生活研究所理事、コンポストトレーナー、NPO法人日本環境ボランティアネットワーク理事など務める。
grow CONNECTとコンポストのセットは、クラウドファンディング「Makuake」サイトで絶賛発売中。ぜひ応援よろしくお願いいたします!
https://www.makuake.com/project/grow-connect/