【PLANTALK Vol.4】〜「東京緑研究所」は、新たなムーブメントを起こせるか〜 SOLSO代表 齊藤太一×PLANTIO CEO 芹澤孝悦 対談インタビュー
クリエイティブな提案で、グリーン業界のトレンドを牽引する植物のプロ集団SOLSO。その代表を務める齊藤太一さんとPLANTIO芹澤がタッグを組んで、新しいプロジェクト「東京緑研究所」をスタートさせた。アーバンアグリカルチャー が世界で注目を集めるなか、それぞれの視点と、ともに描く未来を語る。
園芸業界をどうアップデートするか、それがスタート地点

芹澤:アーバンアグリカルチャー(都市での農業)やパーマカルチャー(持続可能な農業)が世界的に大きな流れとなっている今、齊藤さんは旧来の園芸業界を踏まえて話ができる唯一の人です。
齊藤:芹澤さんは老舗プランター屋さんの三代目ですが、僕は親戚が地元の花巻で園芸店をやっていて、学生時代にお手伝いとして入ってから園芸の世界にどっぷりのめり込んで。立場は違えども、常に周りに園芸の先輩がいて、知識やノウハウを蓄えてきたという部分は共通しています。
そもそも日本には、1970年代に鉢花を中心とした園芸ブームがあったんです。その時代をリアルタイムで体験したわけではないですが、僕が園芸業界に入ったあともブームの残骸はあちこちに残っていて。そういう歴史を肌で体感している僕らみたいな若手は、ほとんどいないですね。
芹澤:40年前もそうですが、正確に言うと20年に1度ガーデニングブームは起こっています。ブームが起こっては消え、起こっては消えしているなかで、今出来上がっているおしゃれなグリーンの世界に至るまでは、泥臭い作業や地道な努力がたくさんありました。
齊藤:それこそ芹澤さんが言うところの2フェーズ前は、今みたいに植物の品種も多くなかったし、鉢まで選べるような時代ではありませんでした。土や肥料も選択肢はなかったから、多くの人が探究心を持って植物の栽培をシンプルに楽しんでいましたよね。僕らが今やっている“育てて、食べる”ということは、そのシンプルなスタイルの進化系のように思います。

おしゃれな空間の中、各地から集めたアウトドア・インドアグリーンをマーケット感覚で購入できる。
芹澤:旧来の園芸業界を踏まえたうえで、どうアップデートしていくかというスタート地点が齊藤さんとは一緒だなと、僕は感じているんですが。
齊藤:もともと園芸は地主の副業から生まれたという背景もあって、僕らのような課題意識を持って進化させようと考える人が、そもそもいなかったんでしょうね。だけど時代とともに、緑や植物全般に対しての需要の内容は変わり、今求められているものを旧来の園芸業界の人たちが供給するのは難しい状況にあります。
“育てて、食べる”を通じて知る、都市部での新しい生き方

芹澤:そこで、いよいよアーバンアグリカルチャーの話になりますが、海外では自分で食べるものは自分で作らざるを得ない状況になってきています。特にイギリスは日本と同じ島国ですが、農業就業人口の減少が顕著に進んでいますし。生産者がわからず、トレーサビリティもない野菜を、お金を出して買うという選択肢ももちろん残っていますが、もっと原始的なところに世界中が回帰しています。

齊藤:僕が生きているうちに地球は大変なことになる、と思っています。この夏、温暖化の影響をリアルに感じた人も多いはず。そんななかで、野菜さえ食べていれば健康だと思っていたり、オーガニックと書いてあればそれだけで良かったり、自分たちが口にする野菜が、どれだけの地球負荷をかけて作られたかまでは知らないですよね。地球負荷をかけずに野菜を食べるためには、自分で作ることはもちろん大事ですし、食べる場所に近いところで生産されるべき。今はなんでも均一化されているがゆえに大量生産、大量消費が繰り返されていて、地球にものすごく負荷がかかっているんです。
僕もそのあたりの知識を徐々に蓄えてきているので、アーバンアグリカルチャーの必要性を得意技の“おしゃれに見せる”というところで、バシバシ伝えていきたいと思っています。芹澤さんとパートナシップを組んでから、SOLSOで扱う食べるグリーンのラインナップが確実に増えました。
芹澤: PLANTIOは、アーバンアグリカルチャーをテクノロジーでサポートしたいという想いがあります。われわれが持っている技術の検証をかねて、恵比寿にシェア型の都市農園をオープンしましたが、まずはアーバンアグリカルチャーをするためのプラットフォーム作りが急務かなと。日本もそういう場所をもっとクリエイションしていけば、もともとは農耕民族なので、自分たちで野菜を作って食べていくようになると思います。
「東京緑研究所」がもたらす影響、そしてこれから

*4社:AIやIoTなどのテクノロジーを使った都市野菜栽培コミュニティを創造するプランティオ、ランドスケープデザインやグリーンプロデュース等を手がけるSOLSOを運営するDAISHIZEN、植物コミュニティアプリを運営するGreenSnap、都市型ハイテク農業を手がけるファームシップ。
芹澤:僕と齊藤さんの接点は、古き良き園芸業界つながりというだけではないんですよね。齊藤さんのおしゃれに見せるスキルをお借りして、われわれのIoTとテクノロジー、さらに流通やメディアを巻き込んだ「東京緑研究所」が、日本橋 浜町に来春完成予定です。
齊藤:今回はSOLSOブランドを有するDAISIZENとして、このプロジェクトに参加しています。PLANTIOさんのほか、農産物流通ベンチャーのファームシップさん、植物特化型のSNSを運営するGreenSnapさんの4社が入って、その名のとおり、東京における“食べる”緑をいろいろな角度から研究する場所になります。
これまでSOLSOとして、見て楽しむグリーンや五感で感じるグリーンを発信してきましたが、 “見る”“感じる”から“食べる”という新しいフェーズに進化させたいなと。そのつなぎ役として機能するのが「東京緑研究所」です。
芹澤:“食べる”ということはすごくプリミティブな行為で、人類にクリティカルヒットするところなんですよね。ただそこにひとっ飛びにはどうしてもいけなくて、見せ方とか伝え方を整理しなければなりません。4社の持ち味を生かして研究を重ね、サービスの提供までこぎつけられたら、日本におけるアーバンアグリカルチャーは加速すると思います。
齊藤:プリミティブなものだけに、地道な活動になるでしょうね。いくらテクノロジーを駆使しても、できることとできないことがあって。最低限のプリミティブな土台がないと成り立たないし、実験的な場なので僕らも手探り状態で。でも新たなムーブメントを起こすには、とりあえず動き出すしかないなと。
芹澤:齊藤さんにしかできないおしゃれな世界を見せれば、人はパッと動き出すだろうと感じています。ただそこに至るまでには、種や土の問題、水の問題などクリアしなきゃいけない社会課題がありますが、PLANTIOはそれらをいったんすべて潰しているので、これから膨大な需要の波が押し寄せてくるはず。「東京緑研究所」は、齊藤さんがこれまでやられてきたことと、僕がやってきたことが本当の意味で交わって伝わっていく場所になると思います。
PROFILE
齊藤太一(さいとう たいち)
造園家・グリーンディレクター。 ランドスケープやインドアグリーンのデザインを行うSOLSO、SOLSO FARMなどを運営するDAISHIZENの代表。 話題の商業施設や建築家とのコラボレーションを数多く手がけている。 2018年に自身のキャリア20周年を迎え造園家、農家としてもあらたなキャリアをスタートし活動の場を広げている。
株式会社DAISHIZEN http://daishizen.co.jp
『SOLSO』 http://solso.jp