種を紡ぐことは、日本の未来を紡ぐこと。老舗種苗会社・アサヒ農園とgrowの事業連携が変える、これからの日本の「食」と「農」
創業140余年を数える歴史ある種苗会社「アサヒ農園」と、東京都心を中心にIoTシェアリング農園を展開する「grow」を運営するスタートアップのプランティオが、2023年より事業連携をスタート。事業連携開始にあたり、株式会社アサヒ農園・代表取締役の後藤 勇太朗氏と株式会社プランティオ・CEOの芹澤 孝悦氏が対談を行いました。

ウェビナーは終了いたしました。たくさんのご参加、ありがとうございました。
さらに、2月2日(木)18:00からは両社によるウェビナー「種とは?」の開催が決定。こちらの記事では、登壇を控えたお2人による、「種」に関する疑問や課題、これからの日本の未来のために取り組むべきことについての対談の一部始終をご覧いただきたいと思います。そして、興味を持たれた方はぜひともウェビナーにご参加いただけたら嬉しいです!
★ウェビナー参加申し込みは記事の最後のリンクからどうぞ。
目次
- 「種苗会社」って、何をしている会社?
- 日本の自給率はなんと10%!「種」が抱える課題
- 「野菜遺産プロジェクト」の取り組みとgrowのかかわり
- 「種とは?」ウェビナーのご案内 ※終了しました
「種苗会社」って、何をしている会社?
芹澤:この記事をご覧になっている方々だけでなく、たぶん日本に住んでいるほとんどの人が種苗会社がどんなことをしている会社で、社会にとってどれだけ重要なのか、ご存知ないと思うんですよ。説明が難しいとは思うのですが、ひと言でいうと種苗会社ってどんな会社なんですか?
後藤:確かに難しいですね(笑)。種苗会社は、ひと言で言うなら「種の元となる品種を作っている会社」です。普段あまり意識することはないと思いますが、みなさんが食べている野菜はもちろん、花や牧場の牧草、ゴルフ場の芝など、どんな植物も「種」がないと生まれません。
種苗会社はそのあらゆる「種」を作っている会社なのですが、種をただ作り続けるだけではなく、その土地に合わせた品種に改良したり、種を量産したりすることが仕事です。また、種の品質を維持したり、供給が止まらないよう、適切な環境で備蓄しておくことも私たちの大切な役割だと思っています。

芹澤:なるほど。ただ種を作るのではなく、種をまもり、保存し、供給しつづけることが種苗会社さんの役割なのですね。確かに、種が日本からなくなったら、農業だけではなくあらゆる産業がストップし、私たちの生活や生命にかかわる問題に発展してしまうでしょう。本当の意味で日本を支えている存在なのだなと思います。


日本の自給率はなんと10%!「種」が抱える課題
芹澤:そんな重要な役割を担う種ですが、驚くべきことに日本では種の自給率が10%未満と言われています。私が花業界にいた頃、花の種の品評会に出席したことがありまして、日本はたくさんの品種で1位を獲得していたので、日本は優れた品種改良技術を持っていると思っていたのですが、なぜこんなにも種の自給率が低迷しているのでしょうか?

後藤:おっしゃる通り、日本は高い品種改良の技術を持っています。ところが国土の占める農地面積や気候の関係で種そのものを量産する環境を確保することが難しいので、自国で種の生産自体が行えない、よって自給率が上がらない、というのが実情です。
種の生産には、ある程度他の植物から隔離された環境が必要なため、作物を作るよりも大きな面積が必要とされています。最低1ha、できれば10ha必要です。(1ha=1万平方メートル)
これだけの広い面積を確保できるのは日本では北海道くらいなのですが、気候の問題で栽培できる品種が限られますし、他の場所でなんとか確保したとしても、コストが割に合いません。そのため、種の生産はほとんどが海外で行われます。多くはイタリア北部や中国などです。正直なところ、日本には品種を作る技術はあるが、種を作る場所がない、という状況ですね。
芹澤:とはいえ、種は品種登録制度でライセンスが守られているので、ライセンスは日本にあるから、生産が自国で行えなくてもそこまで問題にならないのでは?と考えていたのですが、そうではないのですか?
後藤:実は世界的に見ると、日本の野菜の登録品種のシェアはそこまで高くないんです。また、ライセンスにパワーがあるかというとそうでもなくて、種という生きているものを扱う上では、ライセンスの「情報としての価値」よりも「ものとしての価値」のほうが重要なのです。要は、種は「生産できるかどうか」にかかっているんです。そういう意味で、自国で種を採種することは、今後かなり重要な取り組みになってくると思います。
芹澤:自分たちの手で種を採るということは、本当に大切なことですよね。今から60〜70年前、昭和30年代までは自家採種をしている農家さんも多かったわけですし、野菜の品種も今のような流通向きの野菜に限らず、色々な野菜が出回っていました。
「野菜遺産プロジェクト」の取り組みとgrowのかかわり

後藤:そうなんですよね。アサヒ農園では2022年から「野菜遺産プロジェクト」と名付けて、世の中に一般的に出回っている品種だけでなく、もっと色々な野菜の品種、そしてその野菜の「種」について知ってもらい、次の世代に残していくプロジェクトを始めました。
「伝統野菜」「江戸野菜」など古い品種を復活させることだけにこだわらず、むしろその土地で育った野菜を品種改良していくことで、その土地に合った野菜、いわば「令和野菜」が生まれたら面白いな、と思っています。
そして、ただ野菜を作って種を採るだけではなくて、その野菜を食べてくれる人を増やすために、野菜ごとの特徴を活かしたレシピの開発も合わせてやっていきたいと考えています。食べてくれる人が増えれば、つくる人も増える。結果的に多くの品種を次の世代に残すことができる。
珍しい野菜を育てたところで「この野菜、どうやって食べるんだろう?」ということになっては、いずれ廃れていってしまう。考えてみれば人類はもう長い間、新しいレシピを開発していないんですよ。食べ方がわかれば、レシピが生まれて野菜も生産されるようになります。
芹澤:「まずはその野菜を食べたいと思う人を増やすことで、野菜を育てる人が増える」という考え方は、まさにgrowの取り組みに通ずるところがありますね!growの展開するシェアリングIoT農園で育てている野菜はすべて固定種・在来種なので、アプリ「grow GO」上で表示している栽培ナビゲーションシステムでは収穫して栽培終了、ではなく、種を採るところまでをナビゲートしています。アサヒ農園さんとの事業連携によって、さらに詳細で魅力的な採種の方法を案内できたらいいですね。
後藤:そうですね!アサヒ農園でも、種採りの季節には研究農場で種採り体験のワークショップを実施しています。種苗業界では種を作る人のことを「ブリーダー」と呼びますが、現在、日本には個人のブリーダーさんは数えるほどしかいらっしゃいません。種の採り方を発信することで、種を採ることができる人を増やすことは、次の世代に種を紡ぐためには不可欠だと考えています。
芹澤:その通りですね。固定種・在来種の観点で言うと、3世代にわたって種を採るとその土地に合った形質の種が採れると言われていますが、実は私も渋谷で育って3世代目なんですよ(笑)。親子3代でその土地で育つと、やっぱり情報量やネットワークが違うんですよね。植物で例えていうなら“根張りが違う”というか。
後藤:根張りという言葉は良いですね!私もこの土地(愛知県稲沢市祖父江町)で何世代も育っていますが、子どもの頃は地域の人みんなが自分のことを知っているのが何だか恥ずかしかったのですが、今になってこの土地で育ち、仕事をしていることの意味を感じますし、今の時代、植物のようにここに根を張って、ここならではの生き方を模索する、というのはなかなか実践できることではないですものね。
芹澤:お互い生まれ育った土地の在来種(笑)として、その土地ならではの取り組みをしていきたいですね!
「種とは?」ウェビナーのご案内
芹澤:今回の「種とは?」ウェビナーは、どんな話題について語りましょうか?
後藤:そうですね、まずは種の採りかたの基礎についてお伝えしたいと思っています。普段みなさんがご覧になることはないであろう、採種の現場を紹介しつつ、「種ってどうやって作るの?」といった疑問にお応えしたいと思います。
芹澤:固定種・在来種や伝統野菜の歴史についても紹介したいですね。どういう定義で固定種・在来種、そしてF1種という種別が存在しているのか、といったことについてもお話しできればと思います。あとはご参加されるみなさんご興味をお持ちであろう、種苗法についてですかね。
後藤:そうですね。色々と情報が錯綜しているところもあるので、種苗会社としての考えをお話しできればと思います。
ウェビナーは終了いたしました。たくさんのご参加、ありがとうございました。
アサヒ農園さんとgrowによるウェビナー「種とは?」は、2023年2月2日(木)18:00-19:00で開催予定。どなたでもできますので、種のこれからにご興味をお持ちの方はぜひご登録くださいね。
