「Farm to Table」ということ
美食の街・東京でこそ
野菜という日常的な素材で勝負
都心から車で約1時間、千葉県佐倉市にある「在来農場SAKURA」。都内で5つのレストランを経営する、「ALL FARM」の自社農場です。2012年にオープンしたこの農場では、露地栽培で年間50〜60品目、150〜200品種の野菜を育てています。
「収穫作業は、夏は朝4時、冬でも6時頃から始めます。できれば、お店のランチに間に合わせたいので。お店が休みの日以外は、雨でも台風でも出荷しますよ」
と、在来農場の農場長・寺尾卓也さん。「おいしい野菜を、新鮮なうちにお客さんに食べてほしい」との思いから、農場の立地にもこだわったといいます。
「都内まで車で1時間以内という立地で、農地を探しました。神奈川、埼玉、山梨とあちこち見て回るなか、比較的広い農地があって条件にもあう佐倉に決めたんです」
でもなぜ、農地を確保しにくい首都圏でのFarm to Tableにこだわったのでしょう。地方でなら、もっと簡単に土地が見つかったはずです。その答えは、寺尾さんの相方である古森啓介さん(ALL FARM社長。レストラン部門統括)との出会いにありました。
「僕らは京都の高校で知り合って、『将来は一緒に何かしよう』って、その頃から話していたんです。その後、僕は大阪で農業に携わり、古森は東京で料理人になりました。
そんな古森と、『本当においしいものって何だろう』『僕らに何ができるだろう』と考えた結果、野菜という日常的で素朴な素材を、最高においしい状態で提供したい、ということになったんです。そして、どうせなら、高級フレンチや割烹をはじめ、おいしいものが集まる東京で挑戦しようと決めたことがきっかけで、現在に至ります」
2012年のオープン当初には1か所だった畑も、今では10か所に拡大。合計約6ヘクタール(6万平方メートル)の畑を、7人のスタッフが管理しています。
「大切なのは、その野菜が、どうしたらお皿の上で輝くかということ。僕ら“畑チーム”は、そのことを考えて育てる野菜を決め、健康な野菜を出荷するよう努めています」

旬の野菜を提供し、
季節と畑を感じてほしい
一方、“飲食チーム”を統括するのが寺尾さんの相方、古森さん。農場のオープンから1年半後の2014年、代々木上原にレストラン「WE ARE THE FARM」の1号店をオープンさせました。自社農場を持ち、Farm to Tableを実践するやりがいは、お客さんというエンドユーザーの顔が見えることだといいます。
「こんなふうに育つ野菜だとか、育てる過程がこんなに大変だとか、野菜について知ったうえで食べてもらえるのは、うれしいですね」
お客さんに野菜の旬を感じてもらうため、農場では露地栽培にこだわっています。スーパーの野菜売り場には、一年中、さまざまな野菜が並びますが、露地栽培では当然、欠品する野菜も出てきます。
「露地で育てられた旬の野菜には力があり、おいしいと僕は感じます。でも、お店をオープンして1〜2年目の端境期は大変でしたね。栽培技術が不十分でうまく作れなくて、お店のメニューから、びっくりするくらい野菜がなくなりました(笑)」
逆に旬の時期には、一つの野菜だけ集中的に収穫できることも。ある年の夏には、ナスのメニューばかりが並んだこともあるそうです。
「お客さんから『ナスばっかり?』って聞かれて、『畑にナスばっかりあるんです』って(笑)。2017年の秋冬シーズンは、3000株も植えてしまったケールが予想以上に育って、慌ててケール食べ放題の鍋料理を考えました。でも、それが楽しいんですよ」
せっかくだから旬だけでなく、畑の雰囲気も同時に感じてほしいと、古森さんから“畑チーム”にリクエストすることもあります。
「サラダにしたくて、普通は捨ててしまうビーツの葉を納品してもらったり、キュウリの花を届けてもらって提供したり。そんなところでも、自社農場を持つ自分たちらしさを出していきたいです」
野菜の旬と向き合い、畑を感じてもらえる食べ方を提案する―—それが、ALL FARMが目指すFarm to Tableの形でした。

プロフィール

古森啓介さん
ふるもり・けいすけ
株式会社ALL FARM代表取締役社長。和食店、鉄板焼き店などで修業したのち、ALL FARMを設立。都内で3店舗を展開するレストラン「WE ARE THE FARM」、2店舗を展開するバル「STAND BY FARM」を統括している。

寺尾卓也さん
てらお・たくや
株式会社ALL FARM取締役執行役員、農場長。大学卒業後、大阪府高槻市の農事組合法人で農業に従事したのち、ALL FARMを設立。7人のスタッフとともに、固定種、在来種の野菜作りに取り組んでいる。